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横浜地方裁判所小田原支部 平成8年(わ)66号 決定

少年 Z・E(昭和52.3.3生)

主文

本件を横浜家庭裁判所小田原支部に移送する。

理由

本件公訴事実は、

被告人は、Aと共謀の上、金品を強取しようと企て、平成7年10月16日午後11時ころ、神奈川県秦野市○○×丁目××番××号先路上を歩行中のB(当時19歳)に対し、「ガンをつけただろう。」などと因縁を付けて、同人を同市○○×丁目××番×号先路上に連行し、その顔面を手拳で1回殴打した上、さらに、同市○○×丁目××番×号○○幼稚園園庭に連れ込み、その顔面を手拳で数回殴打し、足蹴りにするなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し、同人から現金約1800円外6点在中の財布(時価合計1700円相当)を強取し、さらに、同市○○×丁目×番×号先路上において、その顔面を手拳で3回くらい殴打した上、足蹴りにする暴行を加え、右一連の暴行により、同人に対し、入院加療約20日間を要する下顎骨骨折等の傷害を負わせた

というのであって、右事実は、当公判廷で取り調べた関係各証拠により認められることから、被告人の本件所為は、刑法60条、240条前段に該当する。

そこで、次に、当裁判所の事実審理の結果に基づき、被告人の処遇について検討する。

被告人は、平成7年3月、神奈川県内の高等学校を卒業後、土木作業員、運送会社のアルバイトをした後、同年8月ころから、パチンコ店の住込従業員として従業員寮で生活しながら稼働していたが、仕事場の雰囲気、寮生活等に馴じめずに不満を抱いていたところ、その気分を晴らすために、日頃から小間使いのように使っていた中学生であるAと居酒屋で飲酒したものの気分が晴れず、同人と通りすがりの人間に喧嘩を吹っかけ、相手を打ちのめしたりすれば憂さが晴れるのではないか、どうせやるなら金員を奪取しようと考え、深夜1人で通行中の被害者を見かけるや、同人なら打ちのめして金員を奪取できると考え、同人に声をかけ、判示犯行に及んだものであり、その犯行は、誠に自己中心的、短絡的であって動機において何ら酌むべき事情はなく、結果においても被害者に入院加療約20日間を要する下顎骨骨折等の傷害を負わせ、多大な精神的、肉体的苦痛を与えたもので、その限りにおいて被告人の責任は軽いものとはいえない。

しかしながら、被告人は、本件当時、18歳7月という若年であり、しかも、本件は酌量減軽しても執行猶予が付せられない事案であるから、被告人に対して成人と同様の刑事責任を追及することは慎重でなければならない。そこで、更に検討すると、被告人らは、本件を敢行するに際して、凶器を用いておらず、幸いにも被害者の負った傷害は全快しており、被告人の保護者が被害者に対して、治療費、慰謝料名下に150万円余を提供するなど誠意を尽くした甲斐もあって、被害者との間で円満示談が成立し、被害者も被告人に対する刑事処罰まで求めていないことなどから、同種事案の中では比較的軽い部類に属すると考えられ、被告人に短期3年6月以上の刑を科さなくてはならないほどの重大事犯であるとまでは認められない。

また、被告人には、補導歴以外に前科前歴がないことから非行性がそれほど進んでいるとはいえず、本件につき観護措置、勾留を通じて4か月近くにわたって身柄を拘束され、その間捜査官の取調べ、少年鑑別所における鑑別、家庭裁判所における調査及び本法廷における刑事手続を経験したことなどにより、本件犯行の重大性を十分に認識し内省を深めるとともに、自らの生活態度等を改める機会が与えられたことが窺われ、これらに被告人が未だに人格形成の可塑性に富む状況にあることを併せ鑑みると、被告人につき、保護処分による矯正可能性があると認められる。

そこで、当裁判所は、以上に示した諸般の事情を考慮し、さらに、少年については刑事処分より保護処分を優先させて少年の健全な育成を期している少年法の理念、法意等をも考慮して、被告人に対して、刑事処分に付するよりも、家庭裁判所において更に調査、審判を受けた後、適正な矯正教育を受けるために保護処分に付するのが相当であると認め、少年法55条により本件を横浜家庭裁判所小田原支部に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 畠山芳治 裁判官 加登屋健治 相川いずみ)

〔参考〕 受移送審(横浜家小田原支 平8(少)837号 平8.7.22決定)

主文

少年を横浜保護観察所の保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、Aと共謀の上、金品を強取しようと企て、平成7年10月16日午後11時頃、神奈川県秦野市○○×丁目××番××号先路上を歩行中のB(当時19歳)に対し、「ガンをつけただろう。」などと因縁をつけて、同人を同市○○×丁目××番×号先路上に連行し、その顔面を手拳で1回殴打した上、さらに、同市○○×丁目××番×号所在の○○幼稚園園庭に連れ込み、その顔面を手拳で数回殴打し、足蹴りにするなどの暴行を加えて、その反抗を抑圧し、同人から現金約1800円外6点在中の財布(時価合計1700円相当)を強取し、さらに、同市○○×丁目×番×号先路上において、その顔面を手拳で3回位殴打した上、足蹴りにする暴行を加え、右一連の暴行により、同人に対し、入院加療約20日間を要する下顎骨骨折等の傷害を負わせた。

(法令の適用)

刑法60条、240条前段

(処遇の理由)

1 少年は、平成7年3月、神奈川県内の高等学校を卒業した後、土木作業員、運送会社等のアルバイトをしていたが、父親との軋轢を生じ、家を出たいと考え、同年8月頃から、パチンコ店の住込従業員として従業員寮で生活しながら稼働していたが、職場の雰囲気、寮生活等に馴染めず、不満を抱いており、また、躾の厳しい父親からアルバイト生活を批判される中で父子関係が悪化し、自分自身への苛立ちを募らせていたところ、Aと一緒に居酒屋で飲酒したものの気分が晴れず、同人と喧嘩などをして憂さを晴らしたい、どうせやるなら金員を奪取しようと考え、通行中の被害者に声をかけ、本件犯行に及んだものである。

2 少年の行為は、自己中心的、短絡的であり、態様においても深夜一人で通行していた被害者に対して暴力を振るって金員を奪取し、その際、被害者に入院加療約20日間を要する下顎骨骨折等の傷害を負わせて多大なる精神的、肉体的苦痛を与えるという悪質なものであり、性格的には活動性が高く、短期短絡的な面が認められ、本件においては、承認欲求が強いものの生活目標が見出せずにいたところ、家庭内で絶対的存在であり、躾の厳しい父親との間で軋轢を生じたことが背景にあると考えられる。

3 そこで、当裁判所は、少年の処遇について検討するに、少年には上記のとおり人格面において未成熟な点があり、父親との関係においても、今後も対立する要素は依然として残っていると思われるが、他方、一般的な非行性は認められないこと、観護措置決定後刑事裁判手続きを経て、その間約4ヶ月に亘って身柄拘束され、自己の行為について十分に反省していること、平成8年5月29日の保釈後、同年6月3日より入鑑前に就労していた「○○塗装」に復職し、就労状況は安定していること、家庭内において、父親、母親ともに、子供に対する指導に熱心であり、一応保護能力は高いと認められることなどから、相当期間専門家による指導を受けることで、社会内における更生を期待し得ると認められる。

よって、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 相川いずみ)

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